基本技術1(発声系)

歌の基本的な技術は大きく4つの分野に分かれています。

1つめは「発声系」。これには空気の使い方である呼吸方法も含まれています。巷でよく言われる腹式呼吸もこの呼吸方法の呼び名なのですが、非常に間違って理解されていたり身につけている方が多く見受けられます。

「お腹から声を出す」と言われると、普通の人の感覚で意識できる「お腹」というのはいわゆる「外腹筋」、つまり手で触れる筋肉を意識してしまうのですが、これは縦に通っている筋肉で、呼吸や発声とあまり関係ありません。もちろん多少は関係あるのですが、あくまで補助的な働きです。初めから腹筋を意識しすぎると、逆に腹式呼吸を身につける妨げになります。

では実際に呼吸するときに使っている筋肉はどこでしょうか?

先に答えを言ってしまうと「横隔膜」です。そう、しゃっくりが出る時に痙攣しているあれです。横隔膜はあなたが毎日24時間休みなく、呼吸をするのに使っている「筋肉」です。ただの膜ではありません。

呼吸する時に大きくなったり縮んだりしている「肺」。この肺には筋肉がなく、むしろ風船みたいなものなので「何か」がこの風船を外から押したり引っ張ったりする事で、呼吸ができいるのですが、その「何か」というのが横隔膜です。名前は「膜」ですが筋肉です。

しっかり声を出す、しっかり呼吸する、つまり横隔膜をしっかり動かすには、お腹を意識したり腹筋運動などで鍛えても、あまり意味がないのです。

少し考えればすぐわかることなのに、間違った理解をしている方が、まだまだたくさんいらっしゃるので、7colorsMusic Schoolでは、本来の「声を出す」さらにその前の「空気を出す」方法を、広く多くの人に伝えて行きたいと考えています。

話が呼吸ばかりになってしまいましたが、ここで発声系で身につける主な技術を見ていきましょう。

【発声系の主な技術】抜粋

  • 呼吸(フルブレスとクラッチング)
  • 横隔膜と腹筋の違い(フルブレス)
  • 吐出力の安定(空気残量が少ない時の対応)
  • 横隔膜の「可動域・強さ・速さ」
  • 破裂母音(パンチ感と呼気速度と内圧)
  • 体共鳴と頭蓋共鳴(体の物理特性・固有周波数)
  • ハードファルセットとソフトファルセット
  • ミックスボイス(鼻腔共鳴と舌筋)

呼吸以外でとても大事なポイントは「共鳴」です。

あなたは「蓄音機」というものをご存知ですか?回転するレコードの溝に、針を乗せると溝の凸凹から拾う微妙な振動をラッパのような形の「ホーン」で、耳に聞こえる音量まで大きくする昔の機械です。

蓄音機

今の時代では想像しにくいかと思いますが、機械とは言ってもこの蓄音機、初期から中期ぐらいまでのものは一切電気を使っていません。ゼンマイで回転しているのです。

実は初めてこの蓄音機の音を体験した時、私もびっくりしたのですが、少し大きいめの蓄音機になると、部屋中でしっかり鑑賞できるほど、けっこう立派な・大きな音が出ます。ささやかな舞踏会ができるほどです。

まさにこの、蓄音機が針から拾った小さな振動を、部屋中に響き渡らせる仕組みが「共鳴」です。共鳴の威力はそれほどまでに強力なのです。電気もアンプも使っていません。

ここで人間の声の仕組みをみてみましょう。声を出すときに振動する部分が「声帯」だというのはご存知だと思います。声帯の働きも主に筋肉なのですが、ここではそこは省略して単純に言うと、声帯が空気の流れによって振動するのが「声」です。

この時点の、声の元になる「声帯の振動」は、さほど大きな音ではありません。蓄音機の「針の音」ほど小さくはありませんが、ご近所から苦情が来るような音量はまったく出ていません。

よく、とても声が小さくて聞き取りにくい方がいらっしゃいますが、声帯の振動だけで出せる音量というのは、実はあまり大きくないので、体を共鳴させず振動を抑えるように声を出せば、小さい声になります。声の小さい方は声帯の振動が少ないのも多少はありますが「共鳴をほとんど使っていない」というのが主な理由です。

逆に言うと、日本人は狭い国土と住宅環境の関係で、この「小さい声を出す」のがとても上手いとも言えます。

さて、共鳴が歌と関わりがある点は、この「声量」がいちばんイメージしやすいかと思いますが、実は他にもたくさんのことに関わっています。それは「音域」「音程」「音色」です。

簡単な言い方をすると、共鳴をうまく使うことで「音域が広がる」「音程が正確になる」「良い声になる」ということです。

そしてこの共鳴をうまく使うには絶対的に空気の力が必要なので、7colors Music Schoolではうまく呼吸ができるような練習をたくさんやります。

この「呼吸」と「発声」はとても奥が深いので、またいずれ改めて触れたいと思います。