基本技術2(音程系)

発声の話の中でも述べましたが、歌の基本的な技術は大きく4つの分野に分かれています。

1つめは「発声系」でした。呼吸と共鳴の両方がこの「発声系」に含まれています。

さて2つ目はタイトルにもある通り「音程系」です。

ひとつひとつの音の高さの正確さを身につけるのが「音程系」の練習なのですが、よく歌が上手いかどうかの判断を、この「音程の正しさ」だけで見る場面が多いように感じます。カラオケボックスなどに行くとこれで点数がついたりしますね。しかしこれは、ある意味では正しく、ある意味では正しくありません。

実は「音程の正しさ」は、ただ単に「気になりやすい」のです。音程が「正しくない」つまり「外れる」と耳につきやすく、多くの人が気になるので、音程が正しいかどうかだけが、歌の上手さの基準になってしまいがちです。

よくある事なのですが、音程の正確さを身につけた途端に、突如として歌手として大活躍する、といった現象が起こります。これは音程の正確さ以外の「歌ごころ」をすでに身につけていた方の場合に限るのですが、「音程が外れる」という邪魔者がいなくなると、途端にその先にある歌の素性の良さが、はっきりと前に出てくるようになった、というのが要因です。

音程の不正確さは「マイナス」ですが、正確にするのは「プラス」ではなく「ゼロ」に戻すだけです。歌を表現する上で、邪魔になる「ハズレ」をやっつける作業が音程系の練習です。

さて、では音程を正確にするための内容にはどんなものがあるのか見てみましょう。

【音程系】

  • 聴力(感覚系と運動系)
  • 頂点音と長音
  • 声帯音程と共鳴音程の違い
  • 上向と下向での差異補正
  • 共鳴点感覚と移動(発声との関係)
  • 舌筋コントロール(音の方向性)

ここで「発声系」のポイントである「共鳴」も出てきてますね。発声と音程には、とても密接な関係があります。

通常、人は話すとき、音に高低差をつけて話します。「〜ですか?」と尋ねる時には、語尾の音は高くなりますね。普段私たちはこの音の高さの調整を「声帯」で行なっています。「声帯」には筋肉があるので、その筋肉を硬く締めつけると、声帯の振動が細かくなり、音が高くなります。逆に声帯の筋肉を緩めると声帯が柔らかくなり、緩んだ振動になるので、音が低くなります。この音の調整方法が「声帯音程」です。

歌を習ったことのない方や、歌を習っていても正しく身についていない方は、この「声帯音程」で歌も歌ってしまいます。ですので、とても喉が疲れやすくなります。

人間の声帯はとても器用なので、この声帯音程だけでも、ある程度なら歌は歌えてしまいます。

ただし声帯の筋肉はとても小さな筋肉ですので、あまり持続力がなく、すぐに疲れてしまいます。何曲か続けて歌を歌うと「喉が痛い」と感じるのは、ほとんどの場合、喉が痛いと言うよりは、声帯周辺の筋肉が「だるい」つまり筋肉痛が起こっているような状態なのです。

声という「振動を発生させる」仕事と「音を上げ下げする」仕事の両方を声帯にやらせているので、疲れてしまうのも当然ですね。

じゃぁどこで音の高さを調整するのか、というと、ここで「共鳴」が登場します。

トロンボーンという楽器をご存知でしょうか?あるいは小学校で使う「たて笛」(リコーダー)でも原理的には同じなのですが「共鳴している物体(中の空気も含む)」が大きい(長い)ほど低い音が出て、小さい(短い)ほど高い音が出る、という物理的な法則です。

筒の長さを長くすれば(トロンボーンで言えばスライドを長く伸ばした状態・笛で言えば穴をたくさん塞いだ状態)低い音が出ます。その逆で短くすれば高くなります。そして小学校で使うたて笛(ソプラノリコーダー)よりも中学校で使う大きいたて笛(アルトリコーダー)の方が低い音が出ます。

プロの歌手は、この筒の長さを利用して音の高さを調整して歌を歌います。声帯は振動を発生させる(声を出す)だけに使い、音の高さは「共鳴」を利用して調整するのです。だから声帯の疲れを最小限に抑えられて、2時間のコンサートができるのです。

「疲れない」以外にも共鳴発声のメリットはたくさんあり、その一つがここでお話ししている「音程」の精度を上げられるということなのです。

考えてもみてください。声帯の筋肉を締めつける力具合だけで、どれだけ音程を正確にできるでしょうか?そもそも声帯の筋肉だけでは、さほど正確な音程が出せるものではないのです。

また「高い声を出す」のも、今の時代では重要な歌の要素ですが、これも「共鳴音程」を使うことで、楽に高い音が出せるようになるのも、メリットの一つです。

歌の要素は一つ一つが密接に関わっているので、発声と音程の関係だけを取っても、身につけると様々なメリットがあるということを、多くの方に知っていただきたいと思います。